脚色エピソードリスト Season 5
以前話していたシーズン5の脚色するエピソードの一覧です。
ここにない話は作者的にリアリティだし改善のしようが無いかなぁと思ったエピソードです。
…本音はリライトしたいと言う関心がn
(2021.2更新:やっぱり全部やります)
•Cranky Bugs / クレーンのクランキー
ブレンダムの港に新しく来たクレーンのクランキー。
怒りっぽくてトーマスやパーシーと揉めてばかりで、運の悪いことに彼らがとばっちりを受けてしまう。
しかし、ある大嵐の夜に…。
•Horried Lorries / さんだいのトラック
鉄道に遅れが生じ始め、港が大混乱してしまう。
監督は混乱解決の為にトラックを寄越すが、彼らは鉄道を見下し、仕事を横取りしてしまう。
しかしそれも長くは続かなかった…。
•A Better View for Gordon / ゴードンのまど
リニューアルしたカーク・ローナン駅に一番列車を牽いたゴードン。
しかし、目の前が壁で景色が見えないことに不満を持つ。
それから開通式の日にゴードンはトップハム・ハット卿を乗せて駅へと向かっていたが…。
•Lady Hatt's Birthday / ハットきょうふじんのたんじょうび
今日はトップハム・ハット卿夫人の誕生日。
トップハム・ハット卿は万全の格好でパーティー会場へと向かうが、行く途中でトラブルばかり起こってしまう。
•James and the Trouble with Trees / ジェームスがあぶない
新しくペンキを塗り替えたジェームス。
ヘンリーやテレンス達の忠告も無視して港に貨車を取りに行くが、途中ゴードンの丘に生える木が突然…。
•Gordon and the Gremlin / ゴードンとおばけ
機関車達がグレムリンを噂している日の朝、ソドー島に特別なお客が来た。
ゴードンは特別なお客を案内する為に島中を走るが、その道中に様々な事件が起こる。
•Bye George / バイバイ ジョージ
古い路線を解体する為にスチームローラーのジョージが呼ばれた。
しかし彼は手抜き工事でトーマスを脱線させてしまう。
挙句操車場で働くダックを邪魔し…。
•Baa! / パーシーとひつじ
夏になり、"おしゃれステーション"を選ぶコンテストが開かれた。
パーシーはメイスウェイト駅に花と野菜を届けに向かうが、途中で羊に行く手を遮られてしまう。
•Put Upon Percy / ゆうかんなパーシー
精錬所や製粉所、石切り場、燃料倉庫に操車場とあちこちで働いているパーシー。
オーバーワークでヘトヘトでも機関庫に帰ればトーマスにからかわれてしまう。
翌日、気を取り直して石切り場で働いていると…。
•Toby and the Flood / ながされたトビー
ソドー島には何週間も土砂降りが続いていた。
ヘリコプターのハロルドが川や近くにあるダムの見回りをしている中、トビーはダムの補修工事の為に部品を届けに向かったが、その途中でダムが決壊し始めてしまい…。
•Haunted Henry / きりのなかのできごと
ドナルドとダグラスに代わって古い湖の路線を新しくする作業に当たっているヘンリー。
エドワードにフクロウの鳴き声と霧には幽霊が付き物だ、と言われたが彼は全く信じない。
しかし古い線に入っていくと奇妙なことが起こり始める…。
•Double Teething Trouble / なかよくやろうよ
修理中のエドワードと多忙なボコとダックに代わってビルとベンの元へ働きに来たディーゼル機関車のデリック。
しかし彼は初仕事で緊張してしまい、エンジンが故障してしまう。
その噂があっという間に広がり、やがてビルとベンの耳にも…。
•Stepney Gets Lost / まいごになったステップニー
ブルーベル鉄道から石切り場を手伝いにやってきたステップニー。
石切り場で働くトビーとメイビスと共に1日を楽しく過ごしていた。
しかし夜行の貨物を届けた帰り道で道を間違え、精錬所へと迷い込んでしまう…。
•Toby's Discovery / トビーのたんけん
ハット卿と彼の孫を海辺に案内したトビーとヘンリエッタ。
そこで彼らはダックの支線沿いの古い路線にあるお城を探す探検へと出かける。
お城は無事に見つかったが、分岐点の片方にある鉱山跡は…。
•Something on the Air / みどりのくじら
漁村で働いている機関車に代わってトーマスが港へ魚を届けている道中、高波で崩れかけていた線路を発見する。
運悪くそこはヘンリーも通過する路線で、機関士やトーマスは注意を促したが…。
•Thomas , Percy and Old Slow Coach / トーマスとふるいきゃくしゃ
本土のスクラップ置き場に空の貨車を運んで来たトーマスとパーシー。
そこで彼らは古びた客車を見つける。
同じ頃、ジェームスの運んできた燃料が作業員の不注意で着火してしまい…。
•Thomas and the Rumours / トーマスとうわさばなし
学校帰りの子供達から公園の砂場が使えないことを聞いたトーマス。
何とかしてあげたいと仲間達に相談しようとするが他の機関車達は特別なお客がハロルドに乗って島の調査をすることに手一杯だった。
しまいにはゴードンとデイジーがハロルドに全て取られてしまうと早とちりしてしまい…。
•Oliver's Find / オリバーのはっけん
操車場での仕事にうんざりしているオリバー。
不注意で事故を起こしてしまい、罰として夜行の貨物列車を牽くことになった。
ところが、その途中で古びた路線へと入ってしまい…。
•Happy Ever After / めでたし めでたし
今日はキンドリー夫人の娘の結婚式。
ところが、キンドリー夫人が花嫁にあげる"幸運の贈り物"を用意し損ねてしまう。
パーシーは機関士達と共に島中を走り"幸運の贈り物" - サムシングフォー - を探す。
•Sir Topham Hatt's Holiday / トップハム・ハットきょうのきゅうか
夏のホリデーシーズンにトップハム・ハット卿はトーマスに乗って海辺に行く。
しかしハット卿夫人に客車の文句を言われてしまう。
そこでヘリコプターのハロルドによる遊覧飛行やボートで川下りをするが…。
•A Suprise for Percy / パーシーびっくり
メイビスの代わりに石切り場で働いているパーシー。
毎日、石材と貨車ばかりでうんざりしている彼だったが、ある時貨車達が丘の途中で連結を外してしまい…。
•Make Someone Happy / ひとだすけ
カーニバルの特別な積み荷を取りに行ったパーシーとトビーに代わってトーマスと働いているジェームスは不満そうだった。
しかし、キンドリー夫人ががっかりした様子でやって来たことで話は変わる…。
•Busy Going Backwords / うしろむきのトード
ブレーキ車のトードは後ろ向きで走ることに飽きていた。
相棒のオリバーや彼の恩人ダグラスは元気づけようとしたが効き目がない。
運悪く貨車達にそれを聞かれてしまい、ある日ダグラスとゴードンの丘を登る途中で…。
•Duncan Gets Spooked / まんげつのよるのできごと
線路の片付けをしていたピーター・サムは貨車を古い鉄橋から転落させてしまう。
ダンカンはそのことをからかうが、ラスティーはスカーロイから聞いた話を聞かせる。
•Snow / ゆき
トンネルの前で雪に立ち往生していたトーマスは同じく雪かきをしていたディーゼルのラスティーから昔話を聞く。
それはスカーロイが雪崩に遭った時の話で…。
•Rusty and the Boulder / いわのボルダー
サム重役とトップハム・ハット卿が新しい採石場を開設した。
しかし、その山の上には巨大な岩が佇む曰く付きの場所だった。
ラスティーは心配そうだったがある時、掘削機のサンパーが岩を勢いよく掘り起こしてしまい…。
皆様にお詫びとこれからの行く末
読者の皆様へ
原作75周年記念…!と言うのはちょっと違いますがちょうど被りましたし。
(本来はオードリー牧師とソドー島の話を書きたかったけどかなり後になってしまいます、それは後述)
今回、海外の方がされている"リライト" - つまり脚色 - を私もやってみたいと思いまして今に至ります。
リライトするのは作者お気に入りのシーズン、それはシーズン5です!
原作から離れてTVシリーズ路線を開拓した最初のシーズンですね。
そのシーズンの中にある幾つかの話を「オリジナルを崩さないように」「なるべく現実的に」脚色したいと思います。
…とここで終わりたいのですが、こうなったのも実は話の種は出来てもそこで止まってしまうものが増えてきてしまいました。
設定・リアリズムにこだわる、思い描くものと異なる、そう言ったことが続き残念ながら現在書けているのは7話の途中となってしまっています。
そこで一度切りの良い8話で止めて、以降はリライトで進み、落ち着いたらまた9話から始めようかなと思っています。
楽しみにしている皆様には大変申し訳ありません。
しかし、必ずプロットも具現化して最終話(いつになるか)まで書き切りたいと考えてますので。
暖かく見守って下さると幸いです。
作者より
第5話 Percy's Sliding / パーシーのスライディング
タンク機関車のトーマスが働いている支線はナップフォードから北に向かい、ファークァーまで繋がっている。
かつてはグリン含む"コーヒー・ポット機関車"達がこの支線で働いていたが、ジェームスの脱線事故で活躍したトーマスが客車のアニーとクララベルと共に貰ったのだった。
トーマスは長年、この支線で働いているが何とか慣れている。
今ではコーヒー・ポット機関車に代わって、パーシーとトビーが支線の仕事を手伝っている。
パーシーはファークァーから港に石の貨車を運び、トビーはヘンリエッタと荷物車のエルシーと共に採石場の作業員やお客を運んでいる。
手が足りない時は採石場のディーゼル機関車メイビスやバスのバーティーが手伝う。
また、本線や他の支線で働く機関車が来ることもある。
しかし、前にトーマスが穴に落ちた鉱山からウランが採掘されるようになると、支線の仕事は一気に増えた。
酪農場から運ぶチーズも増えているし、農家から運ぶ野菜も沢山だ。
パーシーはこれらの仕事を一人でこなさなければならなかったが、彼には別に郵便配達の仕事もある。
彼のお気に入りの仕事だ。
そんなこともあってパーシーは目が回るほど忙しくなっていた。
「またオーバーワークだよな。」
「ペンキを塗り替えて貰えばオーバーワークなんてへっちゃら、何て言っていたのは誰だっけ?」
到着に遅れたパーシーにトーマスは皮肉交じりに言ったが、当の本人は真面目だった。
「冗談で言ったつもりはなかったのに。」
「知ってるさ。それより君は少し遅れているんだからもっと早く来いよな。僕まで遅れたら敵わないよ。」
トーマスはプリプリ怒りながらアニーとクララベルと共に走り去った。
トップハム・ハット卿にもパーシー、一人で支線の貨物列車を任せるのは良くないと目に見えた。
そこで彼は忙しい間彼の仕事をする助っ人の機関車を寄越すことにした。
ところがそこで問題が起きた。
「一体どうしたらいいのだろうか」
ナップフォードにあるオフィスで彼は機関車監督官と話をしていた。
「かつて働いていたデイジーに手伝わせようにも彼女はハーウィックの支線で忙しいからな。あの路線をライアン一人にさせるのは無理だ。」
「…ではロージーはどうでしょうか?彼女なら旅客にしても貨物にしても問題ないですしそれに」
「いや、ロージーはヴィカーズタウンでの入れ替え作業があるからダメだ。」
「…ではスプラッターとドッヂかダックは」
「スプラッターとドッヂはハリーとバートの代わりにアノファ採石場へ貸し出しているしダックも支線の仕事がある。どうすればいいか、他のタンク機関車や小型のディーゼル機関車にしても皆それぞれの仕事を抱えているからな。」
トップハム・ハット卿は運行表と机にある地図と機関車の駒を見ながら考えていた。
そしてある機関車を見て閃いた。
「よし、それならフィリップに手伝わせよう。彼をパーシーと働かせてトビーには普段の仕事に就けばいい。操車場の入れ替えはデニスに任せよう。」
そう言いながらトップハム・ハット卿はレーキでフィリップの形をした駒を動かした。
「それなら問題無いですね。フィリップは元々空の貨車を採石場に届けていますからあの路線に慣れていますし。」
監督官も納得した。
一方、パーシーは顔に疲れが見えるほどヘトヘトだ。
「大丈夫かパーシー?今日の仕事が終わったらゆっくり休んだ方がいいね。」
干し草を受け取りながらマッコールさんが言った。
「やぁ…あれ、大丈夫かい?」
次の仕事で郵便を渡しに来た郵便屋のトムも心配している。
「うん、大丈夫さトム。僕の郵便、貨車に積むの頼むよ。」
トムは何が言おうとしたが、駅員が郵便袋を積み始めたのでそのまま駅員を手伝い始めた。
やがて貨車に積み終えるとパーシーは走り出そうとした。
だが、その時大きな破裂音と車輪に痛みが走った。
「イタタタ!もう、急がなきゃいけないのに!」
彼は不満そうだ。
機関士と機関助手がパーシーを点検している。
トムは友達が無理をしなくて済んだため少し安心したが、郵便を届けることが出来なくなるとわかるや否や、すぐにポケットから電話を取り出し、郵便局長に事の次第を話した。
そして、話し終わるとパーシーの元に来た。
ちょうど機関士達の点検が終わっていた。
「ロッドが故障したんだ。」
「ここの機関庫にいくつか部品があったはずだ。それを使って直しておこう。」
機関士と機関助手が機関庫に探しに行くと、トムがパーシーに優しく言った。
「局長が君の郵便はハロルドに運んでもらうことにしたそうだ。トップハム・ハット卿も賛成しているってさ。」
「君はその間機関庫で休むと良い。次の仕事まではまだ時間がある。」
駅長も言った。
パーシーは大好きな郵便の仕事をハロルドに取られて残念だったが、好意に甘えて機関庫で休むことにした。
「ありがとうございます…。」
機関士達が戻ると彼はヨロヨロと郵便車を待避線に移し、機関庫へ滑り込んだ。
パーシーは機関庫でしばらく休んでいた。
その間に機関士達が応急処置をしている。
トビーがヘンリエッタとエルシーと共にお客を運んできた時、ちょうどヘリコプターのハロルドが着陸してきた。
「パーシーに代わって郵便を届けないとね。やっぱりいざとなったら僕の助けが必要になるんだ。」
ハロルドは少し嬉しそうだった。
幸いなことにパーシーは眠っていたため、いつものように揉めることは無かった。
駅員とパイロットが、貨物室に郵便袋を積み込んでいる。
「前みたいに貨物用ネットで吊るすのは危険だね。いくら重量オーバーしていたとしても。」
「今回は大丈夫だ。それに前みたいに郵便は多くないよ。」
心配そうなハロルドにパイロットは笑って言った。
やがて郵便袋を積み終えると、彼らはブルブル音を立てて飛び立った。
パーシーはハロルドのやかましいローターの音で重い瞼を開けた。
辺りには埃と塵が舞った跡がある。
やれやれとまた眠りにつこうとした時、機関士がパーシーを起こすように話しかけた。
「休んでいるところ悪いな。もうじきメイビスが貨車を運んでくる。そいつを港まで運んで、港から空の貨車をここにまた運ぶぞ。」
「ふぁーぁ。はーい、分かりましたぁ。」
彼は欠伸をしながら眠そうに言った。
やがてメイビスが貨車を牽いて操車場に着いた。
機関士が連結を切り離して、彼女を待避線に移す。
そこからパーシーが引き継ぎ、港まで運ぶのだ。
ロッドは直したため、パーシーは何とか貨車達を牽いて走ることが出来た。
「急げ、急げ!急いで港へ向かわなくっちゃ!」
だが貨車達は気に入らない。
彼らは出発の準備を整えずに無理やり走らされているからだ。
「オレ達をこんな風に扱うなんてひどいヤツだ!」
「いつも港に行くときは言うことを聞かせようと乱暴にぶつけてきやがって。」
「それに今日は無理に出発させやがった!」
「何かあの緑の芋虫に効くいい薬はないか?」
「それなら良い手があるぞ。アイツに仕返ししてやるんだ。」
「そいつは良い!早速やってやろうぜ!」
「「やろう、やろう、やっつけてやろう!」」
しかし、運悪くパーシーや機関士達にはよく聞こえていなかった。
パーシーはキンドリー夫人に汽笛を鳴らして挨拶し、トンネルを抜ける。
畑を耕しているトラクターのテレンスにも挨拶しようとしたが、そこで問題が起こった。
「「押せ、押せ!」」
貨車達がここぞとばかりにガツンガツンと車体をぶつけてきた。
車掌はブレーキをかけたが、急な斜面と貨車の重さとスピードのせいで中々掛からない。
機関士も蒸気を抑え、勢いよくブレーキをかけたがブレーキはかからない。
「まだ故障していたのか!」
「このままじゃ止まらないで波止場に一直線だ!」
機関士は砂撒き装置を使って車輪に砂を撒き、少しでもスピードを落とそうとしている間に助手は無線で管制室に連絡を入れた。
その頃、ハロルドは郵便配達を終えてドライオー駅近くの飛行場にいた。
燃料がレスキューセンターまで持ちそうになかったため、補給していたのだ。
「燃料が満タンになったらレスキューセンターへ戻ろう。きっと皆心配してるかもな。」
ハロルドが答えようとしたその時、駅員が駅長の元へ駆け込んだ。
よほど焦っているのか大きな声で話す為、ハロルドとパイロットにも何を話しているのか聞こえた。
「ファークァー線で暴走列車だ、こっちには来ないが港に向かってるらしいぞ!」
「列車は止められているのか?」
「全ての列車を止めてる。環状線に入っている本線の機関車もだ。」
ハロルドもパイロットも知らせを聞いて目を丸くした。
すぐさま追いかけようにもまだ燃料が足りないので、彼らは待たなければならなかった。
ハロルドがやきもきしている間もパーシーは支線を突っ走る。
支線の信号所には既に連絡が回っていて、列車は止められ、踏み切りも閉ざされたままにしている。
踏切待ちをしているバーティーは腹を立てた。
プップー!
「急いでくれよ、僕はトーマスのお客を乗せているんだから!」
しかしすぐさま汽笛と車輪の軋む音、そしてガチャガチャとやかましい音と叫び声が聞こえて来た。
ピッピッピー!
「助けてぇ、止まれないんだよぉ!」
「「行け、行け!脱線させてやれぇ!」」
「何だありゃ!」
さっきの怒りはどこへやら、バーティーはギョッとしている。
プップップッ!
後ろにいた乗用車のキャロラインがクラクションを鳴らして、やっと彼はゲートが開いていたことに気づいた。
「おっと、ごめんよキャロライン。」
パーシーのことが心配だったが彼は無事であることを願うしか出来ない。
そのパーシーは接続駅を通過してトリレック駅へと差し掛かっていた。
トリレックの信号手はエルスブリッジの信号所から連絡を受けていた為、すぐにポイントを港へと切り替えた。
ところが彼は港へ向かう線路の途中に列車が停車しているのを忘れていた。
「しまった!仕方ない、ナップフォードの港前の信号所に任せよう。」
しかし知らせを聞いた信号手はトレリックの信号手に怒鳴った。
「馬鹿野郎!ナップフォードの港に続く線路は単線なんだぞ!なんでエルスブリッジで止めなかったんだ。この揃いも揃って…間抜けめ!」
彼は大急ぎで列車の乗務員へ知らせに向かった。
港まで向かう線路がどこまでも続いている。
その遥か彼方にはディーゼル機関車のスプラッターとドッヂが停車していた。
彼らはメイビスを手伝う為に空の貨車を牽いて採石場へと向かうところだったが、そこにパーシーが暴走している知らせが入ったため止むを得ず港から少し離れた場所で止まっていた。
「いつまでここにいなきゃいけないんだ?」
「知るもんか。信号が青になるまでって機関士は言ってたけど。」
「「信号は青にならない。」」
「二人で文句を言うな。もうじき通過して…」
その時前方から何かが見えた。
ドッヂの機関士はそれが何かわかると大慌てで機関室に駆け込み、ドッヂのブレーキを緩め始めた。
「おいカイル。一体どうしたんだよ。」
「分からないのかジョン、暴走列車がこっちに向かってるんだ!早く機関車のブレーキを緩めて衝突の影響を緩くするんだ!」
パーシーがぐんぐんと迫っている。
スプラッターの機関士もブレーキを緩めてバックさせた。
「お、おい。強く押すなよ」
「オイラ、バックは苦手なんだから仕方ないだろ。」
「それはオイラも」
しかし、彼らの速度は遅い。後退しているのと貨車の重さもあってノロノロと線路を後退している。
ピッピッピー!
「わぁ!そこ退いてぇ!」
パーシーは目を瞑った。
「もうだめだ、降りろ!」
機関士達は大急ぎで機関室から飛び降りた。
「そんな嘘だろぉ!」
「おい、早くしろ早くしろ!」
ガッシャーン!
パーシーはドッヂとぶつかった。
幸いにも二台のディーゼルが後退していた為、大きな事故にはならなかったが、ぶつかった影響でそれぞれの貨車は脱線している。
しかし中にはバラバラになったのもいる。
パーシーの貨車達は仕返しに成功してゲラゲラ笑っているが、スプラッター達の貨車は仲間を失って悲しそうだった。
パーシーはと言うと、バンパーやボディがへこみ、飛行場の敷地に脱線して横倒しになっていた。
ドッヂもパーシーとスプラッターの、スプラッターもドッヂと貨車の板挟みとなって、同じく横倒しだった。
すぐに車掌が助けを呼びに港へと向かった。
しばらくして、クレーン機関車のハーヴィーがトビーとヘンリエッタと共にクレーン車と作業員を連れてきて後片付けを手伝っている。
トップハム・ハット卿も一緒だった。
「こうなっては支線はトビーとトーマスとフィリップに任せるしかない。君は混乱を招いたな。」
トップハム・ハット卿は不機嫌そうに言った。
「申し訳ありません。」
「次から貨車には気をつけるように。だが、事故の原因は全て君にあるわけではない。エルスブリッジとトレリックの信号所にはキツく注意しておいたからな。」
「あの、オイラ達はどうなるんですか?」
恐る恐るスプラッターが聞いた。
「すぐにディーゼル整備工場に送って異常が無いか見てもらうんだ。その後君達はここの仕事に戻ってくれ。その間は別の機関車に任せるからな。やれやれ、精錬所にまた機関車を送ることになりそうだ。」
「「わ、分かりましたぁ」
トップハム・ハット卿はそう言うと去って行った。
このお話の出演は、
トーマス、グリン、ジェームス、トビー、メイビス、バーティー、ハロルド、テレンス、キャロライン、スプラッター、ドッヂ、ハーヴィーそして、パーシーでした。
第4話 The Kipper's Accident / マードックとフライング・キッパー
ヘンリーが不在の間本線の機関車達は彼の仕事を代わりにしなければならなかった。
つい最近彼は脱線事故を起こしたエミリーと急行列車を牽いて終点の駅まで走った。そのため、バルブやブレーキなどに異常が無いか点検していた。
機関車達は仕事が増えても気にしなかったが、ゴードンとジェームスは貨物列車の仕事が増えて不満たらたらだ。
「全く見っともない!俺が貨物列車の仕事をするだなんて。」
「でもその貨物列車、急行貨物じゃないか。君の嫌いな各駅の貨物列車よりはマシだと思うけどなぁ。」
「ふん!お前には分かるまいネビル。俺は急行"旅客"専用の機関車なんだ。俺の兄弟は皆、旅客列車しか牽いていないんだ。お前みたいな貨物専用の醜いアヒルの子とは違うのさ。」
そう言うと彼は蒸気をあげて走り去った。
ネビルは落ち込んだが、モリーが慰めた。
「大丈夫よネビル。あなたは例え醜いアヒルの子でも貨車の扱い方をよく知ってるじゃない。それにお話で醜いアヒルの子は、その後美しい白鳥になったんだから。」
その言葉を聞いてネビルは少し気分が良くなった。
その日の晩もゴードンは文句ばかりだ。
「…トップハム・ハット卿もトップハム・ハット卿だ!俺に貨物列車の仕事だなんて…。大体昔からそうだ!港が混乱してる時も」
「はぁ、頼むからいい加減にしてくれよ。僕だって貨車の仕事が嫌なのは同じなんだからさ。」
ジェームスがうんざりしながら言った。
「ゴードンって貨車を牽くのが嫌いなの?」
モリーが小さな声でベアに聞いた。
「昔からさ。自分は急行旅客列車専用の機関車だから、とかなんとか言ってね。」
ベアが呆れながら言う。
「聞こえてるぞ。お前らだって元は旅客列車専用の機関車なのに喜んで貨車なんか牽きやがって。全く恥ずかしいことだ。」
「そうそう。はしたないことさ。」
ジェームスにまで言われ、ベアとモリーはムッとした。
言い争いが始まり、マードックが止めようとしたその時、ここではあまり聞きなれない警笛が聞こえて来た。
「あれは…」
「やぁ。良ければ私もここで休ませてもらうよ。」
ディーゼル機関車のボコが唸りを上げながら機関庫に入り込んだ。
「ボコ!お前…エドワードの支線で働いてるだろう。まさか…追い出されたのか?」
「はは、まさか。陶土の貨車をティッドマスの港に届けに来たのさ。デリックの仕事だったんだけど彼はオーバーホール中だからね。私が代わりにしたんだ。」
「そうか、あいつ大掛かりな修理が必要だったんだな。」
「デリックのエンジンはかなり古いものだったんだ。前々からティモシーやソルティーに心配されていたしビルとベンには茶化されていたからね。」
「どうせ怠けるための言い訳じゃ無いのかい?」
「ジェームス!失礼じゃないか!デリックは無理して頑張っていたんだから。君とは大違いなんだよ。」
「何だと!それなら言うけどネビル、君は…」
「全く一体なんなんだね!もう日は暮れていると言うのに君達は…近隣の迷惑になるから静かに話し合いたまえっ!」
一番大きな怒り声が聞こえたと思いきや、そこにいたのはトップハム・ハット卿だった。
「・・・。」
その気迫に負けてどの機関車も黙り込んでしまった。
辺りが鎮まると彼は咳払いをして話し始めた。
「今年は鰊の荷揚げがいつも以上に多い。普通の鮮魚列車ではとてもではないが本土に届けることが出来ない。そこであの特別列車を運行することにした。」
毎年春先になると港は客船や貨物船だけでなく、沢山の漁船で賑わう。
漁船は漁れたての鰊で一杯だ。漁師や作業員達は詰んだ鰊を波止場に下ろす。
魚の一部はトラックで町の店に持っていかれ、残りは港の駅から特別列車で本土や遠いところへ運ばれる。
その特別列車を鉄道員は"フライング・キッパー"と呼んでいる。
普段ならヘンリーがフライング・キッパーを牽くのだが、彼は工場に居る。
「…と言うわけだ。しかしジェームスは始発の旅客列車があるしゴードンも各駅がある。」
「ネビルとモリーはどうです?アイツらは何もないでしょうに。」
「いや、だめだゴードン。ネビルは始発の貨物があるしモリーはヘクターと共に早朝の石炭配達がある。」
「うーん…。ベアも急行列車、私も支線の急行列車があるし….。ハンクとヒロも本土への列車がありますね。」
「ボコの言う通りだ…。となるとどうすればいいか…。」
トップハム・ハット卿は思わせぶりに機関庫の端にいる大型機関車を見て言った。
「ぼ、僕ですか?いやいやとんでもない。僕は確かに本線の貨物専用ですけど…けど…。」
「けど、何だね?」
「フライング・キッパーには良くない噂が沢山あります。ヘンリーから沢山聞きましたが」
「それはただの噂にすぎんよ。それに事故が起こるのは注意、点検を怠ったり自然災害が殆どだ。だから何も心配はいらん。」
「わ、分かりました。それなら僕がやります。」
マードックは疑わしげに答えた。
「よし、よくぞ立候補してくれた。君は立派な機関車だな。うまく列車を牽いたらご褒美にペンキを塗り替えてやろう。」
トップハム・ハット卿はそう言うと港の監督に伝えるために車に乗り込んだ。
翌朝、マードックはいつもよりも早く起きた。まだ他の機関車達は眠っている。石炭配達のあるモリーを除いて。
彼は起こさないようにゆっくりと機関庫を抜け、港へと向かった。
港にはもう既に貨車が並んでいた。
漁師と港の作業員達が貨車に魚を積み込んでいる。
「…貨車が足りないぞ!」
「早くフォークリフトを持ってこい!ここの魚は貨車に積み込むやつだろう!」
「やれやれ、朝からうるさいったらありゃしない。」
静けさを好むマードックは顔をしかめた。
「そう顔をしかめることはないよ。漁師さん達は威勢が良いことで有名なんだから。」
貨車の入れ替えを手伝いに来たアーサーが言う。
「いやぁ、でも僕は」
マードックが言いかけた時、港の作業員が大声で呼んだ。
「おい、そこのタンク機関車!貨車が足りないんだ!すぐ待避線から空の貨車を持ってきてくれ!」
「はーいただ今!ごめんよマードック。また後でね。」
アーサーはそう言うと待避線へと走り去った。
マードックはやれやれと呆れながら列車の先頭へと走り出した。
列車の後尾では問題が起きていた。
アーサーが見つけてきたのは古くて錆びついた貨車だった。
「これじゃあ走行中に壊れてもおかしくないですよ。前にもダックがこれと同じような貨車で…」
「いや、時間がないからこれで大丈夫だ。それにこの貨車は以前にも使ったが何の問題も無かったんだから。」
アーサーの機関士は心配したが港の作業員は気にせず、貨車を連結し魚を積み込んだ。
さらに悪いことに、港の監督も積んだ箱の数と書類に記された数の確認をしていて、貨車の点検をするように指示を出すのを忘れていた。
やがて列車に魚を積み終えた。
貨車のドアが閉まり、車掌が緑のランプを灯した。
「気をつけてね!」
ポーッ!ポーッ!
アーサーの応援にマードックは汽笛を鳴らして答えた。
そして、重い列車と巨大な機関車がゆっくりと動き始めた。
フライング・キッパーの出発だ。
貨車はガチャガチャ音を立てているが、マードックの後をしっかりついてきている。
「順調だな。故障もない、事故もない。時間にも余裕がある。」
機関士が嬉しそうに言う。
マードックも楽しそうだ。最初の不安は何処にやら、本線を颯爽と走る。
途中でエドワードの駅に石炭配達をしているモリーとヘクターにすれ違った。
「頑張って!」
「線路の先をしっかり見ているんだ。それからスピードの出し過ぎにだけは用心だ!」
モリーが励まし、ヘクターは自慢の大きな声でアドバイスを送った。
やがてゴードンの丘も難なく突破した。
ヘンリーがキッパーを牽く時は後押ししてもらうが、マードックには必要なかった。
「ヘクターは気をつけろ、って言っていたけど特に心配はなさそうだな。」
マロン駅を通過しながらマードックは呟いた。
ヘンリーが車掌車と衝突事故を起こしたキルデイン駅の待避線も、トーマスが暴走貨車から事故を防いだケルスソープ・ロード駅も通り過ぎ、修理工場の駅に着いた。
マードックの水が少なくなっていたので機関士は待避線に入り、マードックを給水塔まで移動させた。
その間、作業員達が貨車の氷を補充している。
「順調そのものだ。これならヴィカーズタウンに予定よりも早く着きそうだ。」
マードックの炭水車に水を補給しながら機関士が言った。
やがて水が満杯になり列車は再び本線を走り始めた。
だが、問題のタネは常にある。
マードックや機関士達は気づかなかったが、最後尾の貨車がギシギシと今にも壊れそうな音を立てていた。
おまけに機関士はスピードを上げた。
「そんなにスピードを出して大丈夫なんですか?」
「何、心配ないさ。早く着けばそれだけ朝飯をゆっくり食べることも出来るんだ。」
機関士は冗談交じりに言ったが、機関助手は心配そうだ。
そんなことも知らず、マードックはバラフーの平野を走る。信号は全て緑のランプだ。
間も無くヘンリーのトンネルに差し掛かかった。
トンネルの中は真っ暗で、マードックのランプの明かり以外見えない。
「何て真っ暗なんだ。ヘンリーが象に気づかないのにも納得が」
トンネルの出口に差し掛かかったその瞬間、マードックの冗談は遮られた。
後ろで貨車が脱線したのだ。
と、同時に他の貨車もガタガタと釣られて脱線し始める。
「うぉ、うわぁぁぁ!」
マードックも必死にバランスを取ろうとしたが、巨大な車体と急ブレーキを掛けた影響でふらりとそのまま横倒しになった。
幸いにも怪我人は出なかったが、マードックは横倒しとなり、古い貨車は木っ端微塵となって辺りに魚の匂いが充満していた。
近くの信号所にいた信号手は大きな物音と目の前に広がる光景に驚いたが、すぐに管制室に連絡を入れてくれた。
車掌と機関士は線路に信号雷管を設置して、二次災害が起きないようにした。
やがて、日が昇って明るくなると点検を終えたヘンリーと救援隊がやって来た。
トップハム・ハット卿もいる。
「事故は君のせいではない。貨車の点検を怠った我々の責任だ。すぐに修理して元どおりにしてやるからな。」
「ありがとうございます。」
マードックはそう言ったものの、ヘクターの忠告は正しかったと心の底で思った。
第3話 Friends Together / ヘンリーとエミリー
ヘンリーが工場から戻ってきた。
彼は貨物列車を牽いていた時にゴードンから外れて暴走していた車掌車にぶつかってバッファーを壊してしまったのだ。
すぐに工場へと入り、バッファーを元どおりにしてもらった彼は気分が良かった。
バッファーだけではなくペンキも塗り替えたし、部品も新しいものへと変わった。
「すっかり新品になったなヘンリー。さぁ、もう仕事に戻っても大丈夫だ。」
「気をつけてなヘンリー。お前さんは昔から具合が悪くなりやすいからな。」
工場長とビクターが言った。
ヘンリーは彼らにありがとうを言うとすぐにティッドマスへと走り出した。
機関庫に着いた時にはもう陽は暮れていた。
ゴードンとジェームス、エミリーにベア、マードックといつものメンバーが揃って休んでいた。
だがゴードンはこの前のことと急行をまだ牽けないこともあって機関庫の奥でムッとしていたし、ジェームスは始発の列車があるためもうすでに寝ていた。
唯一話すことができたは2台以外の機関車達だった。
「おぉ、ヘンリー。戻ってきたんだね、おかえり。」
「君がいなくて少し寂しかったよ。」
「工場にいた間はどうしていたの?誰かいた?」
ヘンリーが答えようとした時、車のドアの閉まる音がした。
トップハム・ハット卿がやって来たのだ。
「あぁヘンリー。工場からよく戻って来た。これでまた本線は通常通りの運行に戻りそうだな。」
彼はヘンリーを労うと他の機関車達に言った。
「しばらくエミリーに代わって急行を牽いていたハンクが明日は急遽本土まで行く特別列車を牽くことになった。ヒロも貨物列車の予定があるしドナルドとダグラスやボコも支線の仕事で忙しい。だからエミリーにはまた急行列車を牽いてもらいたい。」
エミリーは大喜びだ。
「ありがとうございます!私、一生懸命頑張ります!」
トップハム・ハット卿はそれを聞いて微笑んだ。
しかし、機関庫の奥からゴードンが不機嫌そうに口を挟んだ。
「でもエミリーだけで丘を登れますかい?彼女は車輪はデカイとしても客車を牽いていくのはどうかと…。」
エミリーは怒ってゴードンを睨みつけたが、ハット卿がなだめながら言った。
「それも一理ある。だがウェルズワースに後押しの機関車を待機させておく。それにエミリーは丘でない限りはスピードを出せるから心配ない。」
そういうと彼は帰っていった。
ゴードンは不機嫌そうに何か呟いたがやがてまた眠りについた。
エミリーや他の機関車達も眠り始めた。
次の日、ワイルド・ノー・ウェスター号が停車するプラットホームには普段より倍の客車が並んでいた。
スタフォードが息を切らせながらやっとのことでホームに客車を入れた。
それをみてエミリーは大張り切り。
「凄い量の客車だね。ヴィカーズタウンまで大丈夫かい?」
ちょうど郵便配達を終えてホームに入ってきたパーシーが眠たそうにしながらも目を丸くして言った。
「これくらい平気よ!私はこう見えても昔は急行列車を牽いていたんだから。」
「でもエドワードみたいな後押し機関車の助けがなきゃ丘は登れないだろう?」
ヘンリーがからかいながら各駅の旅客列車にバックしてきた。
「ん…それは…そうだけれども…。」
エミリーは事実を言われ中々言い返せなかった。
だが、ホームにいる人々がエミリーを観に来るとそのムッとした気持ちはすぐに吹き飛んだ。
「凄いなぁ〜。」
「ママ、見てよ!大きな車輪の機関車!かっこいいね!」
「エイト・フーターが急行列車とは…懐かしいのぉ。」
エミリーはすっかり有頂天になったが、ヘンリーは不機嫌になった。
「ふん!僕だって巷じゃ”ブラック・ファイブ”で有名なのに。」
彼もまた人々に関心されるのを期待していのだが皆エミリーに集中していて焼きもちを焼いているのだ。
《…まもなく1番線から当駅発ヴィカーズタウン行き特別列車が発車いたします。ご乗車のお客様は…》
やがて乗客が客車に乗り込み、ポーター達がドアを閉め出発の準備が整った。
車掌が笛を吹き、旅が始まった。
ポッポー!
そろーりそろりとだが確実に列車は速度を上げ、本線へと滑り込んで行った。
「頑張れよ、エミリー!」
後ろからハンクが声をあげて見送った。
最初のうちは順調な旅だった。
本線を颯爽と駆け抜ける。
クロスビー駅で通過待ちをしていたドナルドとダグラスは目を丸くした。
「あんなに速いとは…。」
「驚きですな。」
やがてエミリーはウェルズワース駅に差し掛かった。
既に待避線でエドワードが待っていた。
「僕が手伝ってあげるよ!一人でその列車を牽きながら丘を登るのは危険だからね。」
「ありがとうエドワード。この前のゴードンみたいなことになるのだけはゴメンだわ。」
エミリーが言うとエドワードはくすくすと笑っていた。
「さ、ゴードンをからかうのはそのくらいにして早い所この丘を登りきっちまおう。」
エミリーの機関士が言った。
すぐにエドワードが列車の後ろに回って準備が整った。
ポーッ!ポッポー!
「そっちは大丈夫⁉︎」
エミリーが合図を送ると
ピーッ!ピッピー!
「準備完了!」
後ろからエドワードの返事が返って来た。
そして長い隊列は慎重に丘を登り始めた。
エミリーは車輪が大きくても客車を牽く力があまりない。
そのため、後押しが必要だったのだ。
煙を吹き上げて2台がやっとのことで丘の麓に差し掛かった。
「やった!登りきったわ!」
エミリーは嬉しそうだ。
「僕はここまでだから後は頑張ってねー!」
後ろからエドワードが声をかけた。
エミリーは汽笛を鳴らすとまた丘を下って旅の続きへと向かった。
その頃、ディーゼル機関車のパクストンが貨物列車を率きながら陸橋の手前に差し掛かると突然車体がグラグラと揺れた。
「あれ、おかしいですね?普段ならこんなに揺れることはないのに。」
変に思ったパクストンの機関士が降りて線路を点検し始めた。
やがて終わると彼は助手に話し始めた。
「線路が歪んでいる。すぐに保線作業員に伝えないとまずいな!」
「でもじきに急行がここを」
「そんなのは分かっているさ!だから急いでいるんだ、早く近くの信号所へ行こう!」
彼らは一目散に近くの信号所へと走り始めた。
だが、時既に遅し。
彼らが信号所に着いた矢先、エミリーが猛スピードで横を駆け抜けて行った。
「あら、こんにちはパクストン!」
機関士や助手、車掌は大慌てで叫んでいたが、エミリーや彼女の機関士には全く聞こえなかった。
パクストンの機関士は信号手に訳を話した。
信号手は大慌てで壊れている線路の先の信号を赤に替えた。
「よし、これで事故になることはないさ。」
だが、信号手の予想は大きく外れた。
エミリーと機関士は運悪く信号が切り替わる前に通過していたのだ。
そうとは知らないエミリーは上機嫌で陸橋を走り抜ける。
「ゴードンに見せてあげたいわ。スムーズに走るこの姿を。ドームも飛んでいないしそれに」
その時、彼女の目には歪んだ線路が見えた。
「大変!ブレーキ!ブレーキをかけて!」
機関士にも見え、大慌てでブレーキをかけたがもう遅かった。
ガッシャーン!
エミリーは線路から脱線してしまった。
幸いなことに機関士と機関助手、そして乗客に怪我はなかった。
だが、エミリーは線路から脱線した拍子にバランスを崩して横倒しになっていた。
可愛そうなエミリー。
車掌が乗客の具合を確かめながら事情を説明する間、助手が信号雷管を設置し、機関士が信号所に危険を知らせに向かった。
一方、エミリーの後ろではヘンリーが各駅の旅客列車を牽いて走っていた。
彼はクロンク駅で乗客の乗り降りを待っていたところだった。
そこへ、機関車監督官が機関士の元に来た。
「この先の線路でエミリーが脱線した。今ハーヴィーとロッキーが復旧作業に当たっているが問題は急行列車だ。」
「どうするんですか?」
「うーん…それがハット卿が言うには代打の機関車が居ないそうだ。どの機関車も自分の仕事で忙しいらしくてな…。」
監督官が言うとヘンリーの機関士は閃いた。
「ヘンリー、君がエミリーの列車を手伝ってくれないか?他に手の空いている機関車はいないんだ。」
ヘンリーは突然のことで戸惑ったが、以前にも重連して列車を牽いたことがあるのを思い出した。
(あの時は途中でダメだったけれど、今度はきっとうまくやれるさ。)
彼は喜んで引き受けることにした。
駅を出てしばらくすると作業員が赤旗を振って彼らを止めた。
前方には客車と脱線したエミリー、そして彼女を線路に戻そうとしているロッキーと作業員達がいた。
「点検に来るのがもう少し早かったこんなことは起きなかったんだけど…ごめんよ、エミリー。」
ハーヴィーがクレーンを動かしながらエミリーに言った。
「気にしないでハーヴィー。悪いのはあなたじゃないわ。スピードを出し過ぎていた私のせいだしこの線路がちゃんとしていないのがいけないんだから。」
「…けど最初のは良いとしても次のやつって結局…いや、いいか。早い所エミリーを線路に戻さないとな。」
ロッキーが何か言いかけたが再び復旧作業へと戻った。
ロッキーがエミリーを線路に戻している間、ヘンリーの機関士がエミリーの機関士に事情を説明した。
「…と言う訳なんだ。」
「分かりました。そうしたら途中の駅で客車を繋げてそこから終点まで重連で行きましょう。」
しかし、これを聞いていた一人の乗客はカンカンだ。
「どうなっているんだ!私は急行だと聞いたから乗っていたのに!これじゃあ最初から各駅停車に乗っていた方がマシだ!今すぐ!切符代を返してくれ!」
車掌が彼の応対をしている間にヘンリーは最後尾の客車と連結して準備を進めた。
ピーッ!ピッピー!
「準備オッケー!」
ヘンリーが合図を送る。
ポーッ!ポッポー!
「待たせてごめんなさい!私も準備オッケーよ!」
線路に戻ったエミリーが合図を返す。
文句を言っていた乗客も何とか乗ったところで二台は走り始めた。
ポッポッ!
「頑張ってねー!」
ハーヴィーが汽笛を鳴らして見送った。
旅は順調に進んだ。
ヘンリーは自分の客車とエミリーの客車の間で必死に車輪を回して走っている。
「頑張れ、もう少しで工場の駅だ。さっき無線で連絡したら工場のディーゼルが各駅を引き受けてくれるそうだ。そこからはエミリーと一緒に急行を索くぞ。」
機関士がヘンリーに言ったが当の本人はそれどころではなかった。
やがて工場の駅に着き、ヘンリーは自分の列車と連結を切り離した。
そして、エミリーの前に来て急行のランプへと変えた。
準備が整うと今度は終点のヴィカーズタウンまで一直線に走った。
「大丈夫?途中の駅で水を補給した方が…。」
「いや、大丈夫だよ。まだ炭水車にも水はあるし…ふぅ…それに大分遅れているからね。このままノンストップで行かないと。」
ヘンリーは息を切らしながら何とか先頭で頑張っていた。
エミリーもそれに応えるように車輪を回して走る。
そして何とか、接続列車の時間に間に合うように終点の駅へと滑り込んだ。
駅に着くと乗客は歓声を上げてヘンリーとエミリーをを称えた。
「いやぁ…君たちは素晴らしかった!本当にありがとう!」
「また乗りに来るね!」
「とても充実した旅になったわい。」
機関士達も大喜びだ。
「よくやったな二人とも。トップハム・ハット卿もきっと喜んでるぞ」
「エミリーは休んでから工場に行って点検してもらおう。ヘンリー、お前もよく頑張ったぞ。これでまたトップハム・ハット卿は俺達に急行を任せるだろうな。」
ヘンリーの機関士が言うと皆大笑い。
中でもヘンリーが一番嬉しそうに笑っていた。
このお話の出演は
ビクター、ゴードン、ベア、マードック、パーシー、ハンク、ドナルドとダグラス、エドワード、パクストン、ハーヴィー、ロッキー、エミリー、そしてヘンリーでした
第2話 The Back Engine / 後押し機関車のジェームス
ジェームスは赤色のボディが自慢でいつも旅客列車の仕事をしたいと思いながら働いている。
また、彼は本線で客車や貨車を牽いて走っているが、時々トーマスの支線やエドワードの支線、その他の支線で働く事もある。しかしその度にジェームスは自分で入れ替えをしなければならなくていつも文句ばかりだ。
ある日の夕方、ジェームスはナップフォード駅でぶつぶつ文句を言っていた。
「まったく!僕みたいな赤い立派な機関車は客車を牽くべきなのに!トップハム・ハット卿は貨車を牽かせたり待避線で入れ替えをさせる!こんなの…こんなの…はしたない!」
トーマスとパーシーはカンカンだ。
「入れ替えがはしたない⁈どういうことさ!」
「エドワードは入れ替えを全く嫌だとも言わないでやってるのに!」
「フン!エドワードは僕を子供の暴走から救ったとしても年寄りの役立たずさ!」
彼はプンプン怒りながら機関庫に戻っていった。
翌日、昨日の不機嫌はどこやらジェームスは嬉しそうにナップフォード駅へと来た。
今日の彼はトーマスの支線を手伝いに行ったエミリーの代わりに急行を牽くことになったからだ。
「よーし、久しぶりの急行だ!僕が時間通りに走ればトップハム・ハット卿は僕に貨車を牽かせることはもうないだろうな!」
しかし、転轍手が連結しようとした時駅長が彼を止めた。
「あぁ、ちょっと待ってくれ!ジェームスにはこれからウェルズワースに行ってもらうんだ。」
話を聞いてジェームスはびっくりだ。
「えぇっ⁈そ、そんな!どうしてウェルズワースに行くんですか!確かにあの駅は急行が止まりますけど…。」
「トップハム・ハット卿からの伝言さ。デリックが故障して操車場の仕事が手付かずなんだ。ダックやドナルドとダグラスは支線の仕事で忙しいし、ビルとベンも手が離せないみたいでね、戻るまでの間君が代わってくれとのことだ。」
ジェームスはだんだんと不機嫌になって来た。
「それじゃあ、僕の急行は誰が牽くんですか?エミリーもいないのに。」
「あぁ、それならくまが引き受けるよ。君は心配せずに仕事に行ってくれ。」
駅長はそういうとハット卿に報告するためにオフィスへと戻っていった。
ジェームスは不機嫌そうに客車から離れ、操車場でブレーキ車を連結するとウェルズワースへと向かった。
ウェルズワースに着くと、デリックが黒い煙を出しながら待避線にいた。
顔は青白く、気分が悪そうなのが読み取れる。
「ゲホッゲホッ!や、やぁジェームス…。」
ジェームスはデリックを見ると不機嫌そうに蒸気を吹いて言った。
「ふん、その汚い煙を僕の綺麗なボディにかけないでくれよ?そんなことされたらお客さんに申し訳ないよ!」
「えぇっ、君は客車を牽くつもりでいたのかい?僕の仕事は貨車を牽いたり操車場で入れ替えることなのに…ゲホッ。」
「そ、そりゃ…」
ジェームスが言い返そうとした時、駅長が操車場長と共にやってきた。
「デリック、もうじきデンが迎えに来る。それからジェームス、君は彼の仕事を代わってくれ。まずここの貨車や客車を入れ替えて、それが終わったら港まで空の貨車を届けてくれ。頼んだぞ。」
ジェームスはまた不機嫌になった。嫌いなディーゼル機関車の代わりに仕事、しかも入れ替えと貨車を牽く。これ以上ひどい仕事はないと思っていた。
しかし、ゴードンのようにストライキをしては元も子もない。渋々ながら彼は仕事を始めた。
まずは操車場の客車や貨車を入れ替える。
急行用の客車はボコが急行を牽くために、空の家畜貨車はエドワードが市場に牽くために、陶土の貨車は後でブレンダムの港まで牽いていくために、と客車をちゃんとした位置に揃え、貨車を種類ごとに分けて揃えさせる。
操車場を行ったり来たり、転車台で向きを変えたり、ポイントで進路を変えたりと半日忙しく働いた。
やがて陽が真ん中に昇り、機関士と機関助手は紅茶とサンドイッチでお昼を食べていた。
ジェームスもやっと休憩できてほっとしていた。
お昼休みが終わるとジェームスは空の貨車を連結して港へと向かった。
行く途中、貨車がいたずらを仕掛けるかと内心、心配していたジェームスだったが陶土の貨車は意外にも大人しくついてきた。
港で貨車を切り離し、再びウェルズワースへ戻ろうとしていると港の監督がやって来た。
「やぁ助かったよ。これでビルとベンに陶土を取りに戻らせることができるよ。」
監督に言われ、ジェームスは少し気分が良くなった。
操車場にもどってもまだ有頂天になっていたところへ高い汽笛の音が聞こえた。
ポッポー!
ダグラスだ。後ろには貨物列車を牽いている。
「あぁ、ジェームス。ここでの仕事はいかがですかな?」
「まぁまぁさ。嫌な貨車達がすんなり言うことを聞いてついてくる以外は最悪だけどね。」
「ハッハッハ!あなたらしい答えですね!それはそうと丘を登る手伝いをして下さらないでしょうか?私の貨車はともかく新しいブレーキ車が言うことを聞かなくて…。」
「ふん!それこそ君らしくないや!貨車の扱いがエドワードに次いで上手なのに。」
だが、ジェームスが後ろに回るとその答えがすぐに分かった。
「あぁ、復帰したと思ったら懐かしいやつらに会うな。最初は俺を壊したやつに次は赤いうぬぼれやのジェームス。」
それは意地悪なブレーキ車だった。
以前、彼はジェームスの列車に付いて丘を登ろうとした時にバラバラにされたのだが、どういう訳だかスクラップにされずに修理工場で修復され、また働くようになった。
「へっ、相変わらず目がくらくらするくらいの赤いボディでいるのか。錆びても大差ないけどな!」
ブレーキ車が言うと他の貨車達がゲラゲラと笑った。
ジェームスは無視して乱暴にぶつけた。
「いてててて!いくらリストアされたとは言えども俺だって古い身なんだ、丁重に扱えよな!」
「フン、生意気言うのに丁重に扱うなんてごめんだね!」
ピーッ!ピッピー!
ポーッ!ポッポー!
二台の機関車は蒸気を吹き上げて貨車を丘の上まで牽いたり押したりした。
だが、丘の頂上まであと少しの所でジェームスの蒸気が無くなってきた。
更に悪いことに意地悪なブレーキ車が貨車にヒソヒソと囁いた。
彼は貨車達に後ろに下がるように命じていた。
ダグラスをバカにするよりジェームスにいたずらする方がよっぽど楽しいと考えたのだ。
「後ろに引っ張れ!後ろに引っ張れ!」
息がゼェゼェとなり、車輪が空回りし始める。
煙突からは火花が出ていて、顔はボディのように真っ赤だった。
「ほぉら、どうしたんですかー!もう少しで頂上ですぞー!」
先頭からダグラスが叫ぶが、ジェームスの耳には入らない。
そしてとうとう蒸気が切れ列車がウェルズワース方面へと下り始めた。
ジェームスの機関士もダグラスの機関士も車掌も異常に気づき、すぐさまブレーキをかけたおかげで列車は無事にホームへと滑り込んだ。
ジェームスは待避線に移され、すぐさま機関士達が話し合い始めた。
「ジェームスの蒸気が切れたみたいですね…水を補給さえすればまた登ることは出来るんですが。」
「うーん…だがもうダグラスの列車は既に遅れているからなぁ。待つわけには…。」
ピッピーー!
そこへエドワードがブレンダムからの旅客列車を牽いて戻ってきた。
「あれ、どうしたんですか?」
ジェームスの機関士が事情を説明すると彼は機関士に話した。
「僕の旅客列車はまだ時間があるからジェームスの代わりに後押しすることが出来るよ。」
「なるほどな、駅長と操車場長に話してみるよ。」
彼は操車場長と共にすぐに戻ってきた。
「いい考えだエドワード。すぐにダグラスと貨物列車を丘の反対側まで押してくれ。ジェームスには君の旅客列車を牽かせるから。」
操車場長も同意し、すぐにエドワードはダグラスと貨物列車を押し始めた。
ピーッ!ピッピー!
ポーッ!ポッポー!
ジェームスはただそれを眺めているより他なかった。
その後、ジェームスはエドワードの代わりに旅客列車を牽いて支線を一日中走り回っていた。
せっかくやりたかった旅客列車の仕事だが、今の彼にはちっとも嬉しくない。
ちゃんと仕事するはずが途中でエドワードに変わってしまった。ハット卿はきっとこのまま操車場でのいれかえをさせるつもりだ。
彼はそう考えていたのだ。
やがて夜になり、ジェームスはウェルズワース操車場の機関庫で休んでいた。
ボコとエドワードも戻ってきて、彼を元気付けていたがジェームスは相変わらずだった。
そこへトップハム・ハット卿が車に乗ってやって来た。
(まずいなぁ、ハット卿だ…。)
しかし彼はニコニコ笑っていた。
「ジェームス、今日はよく頑張ったな。デリックの分までしっかりと働いてくれた。…ダグラスの列車をちゃんと後押しできなかったのは仕方がない。でも君は今日、役に立つ機関車としてよく働いたことに代わりはない。」
ジェームスはさっきの気分はどこやらすっかり有頂天になっていた。
「明日はエミリーもトーマスの支線の仕事もあるし他の機関車も忙しい。 そこで…君に急行を任せることにするよ。これからもその調子で赤いボディに恥じぬよう、頑張ってくれたまえ。」
このお話の出演はトーマス、パーシー、デリック、ダグラス、エドワード、そしてジェームスでした。
第1話 A Coupling / 脆い連結器
ゴードンはノース・ウェスタン鉄道の機関車だ。
彼は昔からナップフォードからヴィカーズタウンまで急行を牽いて走っている。
彼はそれを誇りに思っていてそんな特別なことは自分にしか出来ないと思っていた。
しかし、彼が修理に入っている時には他の機関車が牽いているし、最近は彼よりも早い機関車がどんどんと現れ彼の自慢も廃れ気味となった。
ある日、ゴードンはいつものようにナップフォードから急行を牽いて行こうとした。
乗客が客車に乗り込むのを待っていると近くから話し声が聞こえた。
パーシーとスタフォードが操車場で休憩しながら話をしていたのだ。
「ねぇスタフォード、君はこの島で一番速い機関車は誰だと思う?」
「そりゃぁ、ゴードンさ。彼はいつも急行を牽いているし…。」
「でも急行はヘンリーやジェームスやくまだって牽くさ。それに今となっちゃゴードンだってのろまだよ、ケイトリンやコナーはスペンサーよりも速いし、ピップとエマはこの鉄道のディーゼル機関車の中で一番速いって言ってるんだから」
「しかも本土にはシティー・オブ・トルーローやフライング・スコッツマンみたいに有名で速い機関車だっているみたいだしね!」
パーシーが言うとチャーリーも付け足した。
ピッピー!
彼らが笑い合っていたちょうどその時、車掌が笛を吹いたため、ゴードンは走り始めた。だが、彼は不機嫌そうに走っている。
車輪はガタガタと乱暴に揺れ、ピストンもいつも以上に早く回る。
「落ち着けゴードン、そんなに慌てて走ったら客車まで揺れてお客がカンカンになるぞ。」
機関助手が慌てて蒸気バルブを調整したが無駄だった。
「こんなに暴れるのは久しぶりだな!」
だが、今のゴードンには聞こえない。彼は自分が遅いということに腹を立てていたのだ。
「フン!確かに俺は昔と比べたら遅くなってはいるさ、だけどな…この島で一番なのに変わりはないんだ!よ〜し、明日皆に思い知らせてやる!」
だが、後にこれが大変な事故になるとはゴードンは思いもしなかった…。
翌日、ゴードンはイライラとしながらチャーリーに当たる。
「早くしろ!急行は待ってられないんだから!」
でもチャーリーは新しいジョークを考えるのに夢中でゴードンの話は耳に入っていない。
しかも悪いことに、彼は後ろの車掌車の連結が古くて脆いことに気づいていなかったのだ!
転轍手もまだ新米で、ちゃんと確認をしないまま連結した。
やがて、乗客が乗り込みゴードンは走り出した。
「さぁ〜遅れちゃいけない。急げや急げ、急げや急げ!」
「「待てって、そんなに慌てるなよ〜!」」
後ろから客車達がガタガタと文句を言いながら付いて来る。
やがてゴードンの丘にさしかかった。普段ならウェルズワース駅に止まって後押しの機関車を待つのだが、今日は客車が6両であることもあってそのまま突き進む。
「早く早く!もっと早く走らないか!」
ゴードンは客車達を急かしながら丘を駆け上がっていく。
ところが、後ろの車掌車は連結がギシギシと言い始めて不安になってきた。
「おいゴードン止まってくれ!連結が悲鳴をあげてるよ!」
でもゴードンにはその声が聞こえない。
やがて列車は丘の中腹に差し掛かった。
貨物列車は一度ここで止まり、ブレーキをかけながら慎重に丘を下る。
旅客列車は止まらずにそのまま疾走するのだが、前方に列車がいる場合は一度止まってから丘を下るのだ。
ゴードンも前方に貨物列車がカーブを曲がるのが見えたため一度列車の速度を落とし始めた。
しかしこれが大きな間違いだった。
この衝撃で客車同士がガチャガチャと音を立ててぶつかり合った。
そして遂に…
バキッ!
連結が外れて後ろの車掌車だけが丘の中腹に残された。段々とスピードが上がりそして、ウェルズワース方面へと下っていく。
一方丘の麓ではヘンリーが貨物列車を牽いて信号待ちをしていた。
「あーあ、信号が赤じゃなかったら丘を楽に超えられたのに…。」
「前方にゴードンが急行を牽いて走っているからな。丘を下るまで待たないと」
と、その時丘の方からガタガタと音が聞こえていた。
「何だろう、客車か貨車の音だな?」
「わぁ、大変だ!こっちに客車が向かってくる!」
ヘンリーの機関士が慌てて後退させようとしたがもう遅かった!
ガッシャーン!
客車とヘンリーは正面衝突してしまったのだ。幸い、乗客やヘンリーの機関士達に怪我は無かったがヘンリーと客車のバッファーはボロボロになってしまった。
すぐにエドワードがクレーン車を牽いてやって来た。貨物列車はジェームスが牽いて行き、乗客はバスに乗って目的地まで向かい、作業員達が脱線した客車を線路に戻している。
客車が平らな貨車に載せられると、今度はエドワードが壊れた客車を修理工場まで牽いて行き、ヘンリーも後ろ向きで機関庫へと戻っていった。
トップハム・ハット卿はこのことに関して酷くおかんむりで、翌日新入りの転轍手に気をつけるよう注意した。そして、ゴードンにも厳しく注意し、当分はエミリーと交代して各駅の旅客列車を牽くように言い渡した。
ほとぼりが冷めるまでの間、ゴードンはノロノロと走ることになりそうだった…。