Thomas & Friends' Railway Series

チマチマと執筆しているアイリッシュ海に浮かぶ島に住む有名な機関車達のお話

第3話 Friends Together / ヘンリーとエミリー

ヘンリーが工場から戻ってきた。
彼は貨物列車を牽いていた時にゴードンから外れて暴走していた車掌車にぶつかってバッファーを壊してしまったのだ。
すぐに工場へと入り、バッファーを元どおりにしてもらった彼は気分が良かった。
バッファーだけではなくペンキも塗り替えたし、部品も新しいものへと変わった。
「すっかり新品になったなヘンリー。さぁ、もう仕事に戻っても大丈夫だ。」
「気をつけてなヘンリー。お前さんは昔から具合が悪くなりやすいからな。」
工場長とビクターが言った。
ヘンリーは彼らにありがとうを言うとすぐにティッドマスへと走り出した。

機関庫に着いた時にはもう陽は暮れていた。
ゴードンとジェームス、エミリーにベア、マードックといつものメンバーが揃って休んでいた。
だがゴードンはこの前のことと急行をまだ牽けないこともあって機関庫の奥でムッとしていたし、ジェームスは始発の列車があるためもうすでに寝ていた。
唯一話すことができたは2台以外の機関車達だった。
「おぉ、ヘンリー。戻ってきたんだね、おかえり。」
「君がいなくて少し寂しかったよ。」
「工場にいた間はどうしていたの?誰かいた?」
ヘンリーが答えようとした時、車のドアの閉まる音がした。
トップハム・ハット卿がやって来たのだ。
「あぁヘンリー。工場からよく戻って来た。これでまた本線は通常通りの運行に戻りそうだな。」
彼はヘンリーを労うと他の機関車達に言った。
「しばらくエミリーに代わって急行を牽いていたハンクが明日は急遽本土まで行く特別列車を牽くことになった。ヒロも貨物列車の予定があるしドナルドとダグラスやボコも支線の仕事で忙しい。だからエミリーにはまた急行列車を牽いてもらいたい。」
エミリーは大喜びだ。
「ありがとうございます!私、一生懸命頑張ります!」
トップハム・ハット卿はそれを聞いて微笑んだ。
しかし、機関庫の奥からゴードンが不機嫌そうに口を挟んだ。
「でもエミリーだけで丘を登れますかい?彼女は車輪はデカイとしても客車を牽いていくのはどうかと…。」
エミリーは怒ってゴードンを睨みつけたが、ハット卿がなだめながら言った。
「それも一理ある。だがウェルズワースに後押しの機関車を待機させておく。それにエミリーは丘でない限りはスピードを出せるから心配ない。」
そういうと彼は帰っていった。
ゴードンは不機嫌そうに何か呟いたがやがてまた眠りについた。
エミリーや他の機関車達も眠り始めた。

次の日、ワイルド・ノー・ウェスター号が停車するプラットホームには普段より倍の客車が並んでいた。
スタフォードが息を切らせながらやっとのことでホームに客車を入れた。
それをみてエミリーは大張り切り。
「凄い量の客車だね。ヴィカーズタウンまで大丈夫かい?」
ちょうど郵便配達を終えてホームに入ってきたパーシーが眠たそうにしながらも目を丸くして言った。
「これくらい平気よ!私はこう見えても昔は急行列車を牽いていたんだから。」
「でもエドワードみたいな後押し機関車の助けがなきゃ丘は登れないだろう?」
ヘンリーがからかいながら各駅の旅客列車にバックしてきた。
「ん…それは…そうだけれども…。」
エミリーは事実を言われ中々言い返せなかった。
だが、ホームにいる人々がエミリーを観に来るとそのムッとした気持ちはすぐに吹き飛んだ。
「凄いなぁ〜。」
「ママ、見てよ!大きな車輪の機関車!かっこいいね!」
「エイト・フーターが急行列車とは…懐かしいのぉ。」
エミリーはすっかり有頂天になったが、ヘンリーは不機嫌になった。
「ふん!僕だって巷じゃ”ブラック・ファイブ”で有名なのに。」
彼もまた人々に関心されるのを期待していのだが皆エミリーに集中していて焼きもちを焼いているのだ。

《…まもなく1番線から当駅発ヴィカーズタウン行き特別列車が発車いたします。ご乗車のお客様は…》
やがて乗客が客車に乗り込み、ポーター達がドアを閉め出発の準備が整った。
車掌が笛を吹き、旅が始まった。
ポッポー!
そろーりそろりとだが確実に列車は速度を上げ、本線へと滑り込んで行った。
「頑張れよ、エミリー!」
後ろからハンクが声をあげて見送った。

最初のうちは順調な旅だった。
本線を颯爽と駆け抜ける。
クロスビー駅で通過待ちをしていたドナルドとダグラスは目を丸くした。
「あんなに速いとは…。」
「驚きですな。」

やがてエミリーはウェルズワース駅に差し掛かった。
既に待避線でエドワードが待っていた。
「僕が手伝ってあげるよ!一人でその列車を牽きながら丘を登るのは危険だからね。」
「ありがとうエドワード。この前のゴードンみたいなことになるのだけはゴメンだわ。」
エミリーが言うとエドワードはくすくすと笑っていた。
「さ、ゴードンをからかうのはそのくらいにして早い所この丘を登りきっちまおう。」
エミリーの機関士が言った。
すぐにエドワードが列車の後ろに回って準備が整った。
ポーッ!ポッポー!
「そっちは大丈夫⁉︎」
エミリーが合図を送ると
ピーッ!ピッピー!
「準備完了!」
後ろからエドワードの返事が返って来た。
そして長い隊列は慎重に丘を登り始めた。

エミリーは車輪が大きくても客車を牽く力があまりない。
そのため、後押しが必要だったのだ。
煙を吹き上げて2台がやっとのことで丘の麓に差し掛かった。
「やった!登りきったわ!」
エミリーは嬉しそうだ。
「僕はここまでだから後は頑張ってねー!」
後ろからエドワードが声をかけた。
エミリーは汽笛を鳴らすとまた丘を下って旅の続きへと向かった。

その頃、ディーゼル機関車のパクストンが貨物列車を率きながら陸橋の手前に差し掛かると突然車体がグラグラと揺れた。
「あれ、おかしいですね?普段ならこんなに揺れることはないのに。」
変に思ったパクストンの機関士が降りて線路を点検し始めた。
やがて終わると彼は助手に話し始めた。
「線路が歪んでいる。すぐに保線作業員に伝えないとまずいな!」
「でもじきに急行がここを」
「そんなのは分かっているさ!だから急いでいるんだ、早く近くの信号所へ行こう!」
彼らは一目散に近くの信号所へと走り始めた。
だが、時既に遅し。
彼らが信号所に着いた矢先、エミリーが猛スピードで横を駆け抜けて行った。
「あら、こんにちはパクストン!」
機関士や助手、車掌は大慌てで叫んでいたが、エミリーや彼女の機関士には全く聞こえなかった。
パクストンの機関士は信号手に訳を話した。
信号手は大慌てで壊れている線路の先の信号を赤に替えた。
「よし、これで事故になることはないさ。」
だが、信号手の予想は大きく外れた。
エミリーと機関士は運悪く信号が切り替わる前に通過していたのだ。

そうとは知らないエミリーは上機嫌で陸橋を走り抜ける。
「ゴードンに見せてあげたいわ。スムーズに走るこの姿を。ドームも飛んでいないしそれに」
その時、彼女の目には歪んだ線路が見えた。
「大変!ブレーキ!ブレーキをかけて!」
機関士にも見え、大慌てでブレーキをかけたがもう遅かった。
ガッシャーン!
エミリーは線路から脱線してしまった。
幸いなことに機関士と機関助手、そして乗客に怪我はなかった。
だが、エミリーは線路から脱線した拍子にバランスを崩して横倒しになっていた。
可愛そうなエミリー。
車掌が乗客の具合を確かめながら事情を説明する間、助手が信号雷管を設置し、機関士が信号所に危険を知らせに向かった。

一方、エミリーの後ろではヘンリーが各駅の旅客列車を牽いて走っていた。
彼はクロンク駅で乗客の乗り降りを待っていたところだった。
そこへ、機関車監督官が機関士の元に来た。
「この先の線路でエミリーが脱線した。今ハーヴィーとロッキーが復旧作業に当たっているが問題は急行列車だ。」
「どうするんですか?」
「うーん…それがハット卿が言うには代打の機関車が居ないそうだ。どの機関車も自分の仕事で忙しいらしくてな…。」
監督官が言うとヘンリーの機関士は閃いた。
「ヘンリー、君がエミリーの列車を手伝ってくれないか?他に手の空いている機関車はいないんだ。」
ヘンリーは突然のことで戸惑ったが、以前にも重連して列車を牽いたことがあるのを思い出した。
(あの時は途中でダメだったけれど、今度はきっとうまくやれるさ。)
彼は喜んで引き受けることにした。

駅を出てしばらくすると作業員が赤旗を振って彼らを止めた。
前方には客車と脱線したエミリー、そして彼女を線路に戻そうとしているロッキーと作業員達がいた。
「点検に来るのがもう少し早かったこんなことは起きなかったんだけど…ごめんよ、エミリー。」
ハーヴィーがクレーンを動かしながらエミリーに言った。
「気にしないでハーヴィー。悪いのはあなたじゃないわ。スピードを出し過ぎていた私のせいだしこの線路がちゃんとしていないのがいけないんだから。」
「…けど最初のは良いとしても次のやつって結局…いや、いいか。早い所エミリーを線路に戻さないとな。」
ロッキーが何か言いかけたが再び復旧作業へと戻った。
ロッキーがエミリーを線路に戻している間、ヘンリーの機関士がエミリーの機関士に事情を説明した。
「…と言う訳なんだ。」
「分かりました。そうしたら途中の駅で客車を繋げてそこから終点まで重連で行きましょう。」
しかし、これを聞いていた一人の乗客はカンカンだ。
「どうなっているんだ!私は急行だと聞いたから乗っていたのに!これじゃあ最初から各駅停車に乗っていた方がマシだ!今すぐ!切符代を返してくれ!」
車掌が彼の応対をしている間にヘンリーは最後尾の客車と連結して準備を進めた。
ピーッ!ピッピー!
「準備オッケー!」
ヘンリーが合図を送る。
ポーッ!ポッポー!
「待たせてごめんなさい!私も準備オッケーよ!」
線路に戻ったエミリーが合図を返す。
文句を言っていた乗客も何とか乗ったところで二台は走り始めた。
ポッポッ!
「頑張ってねー!」
ハーヴィーが汽笛を鳴らして見送った。

旅は順調に進んだ。
ヘンリーは自分の客車とエミリーの客車の間で必死に車輪を回して走っている。
「頑張れ、もう少しで工場の駅だ。さっき無線で連絡したら工場のディーゼルが各駅を引き受けてくれるそうだ。そこからはエミリーと一緒に急行を索くぞ。」
機関士がヘンリーに言ったが当の本人はそれどころではなかった。
やがて工場の駅に着き、ヘンリーは自分の列車と連結を切り離した。
そして、エミリーの前に来て急行のランプへと変えた。
準備が整うと今度は終点のヴィカーズタウンまで一直線に走った。
「大丈夫?途中の駅で水を補給した方が…。」
「いや、大丈夫だよ。まだ炭水車にも水はあるし…ふぅ…それに大分遅れているからね。このままノンストップで行かないと。」
ヘンリーは息を切らしながら何とか先頭で頑張っていた。
エミリーもそれに応えるように車輪を回して走る。
そして何とか、接続列車の時間に間に合うように終点の駅へと滑り込んだ。

駅に着くと乗客は歓声を上げてヘンリーとエミリーをを称えた。
「いやぁ…君たちは素晴らしかった!本当にありがとう!」
「また乗りに来るね!」
「とても充実した旅になったわい。」
機関士達も大喜びだ。
「よくやったな二人とも。トップハム・ハット卿もきっと喜んでるぞ」
「エミリーは休んでから工場に行って点検してもらおう。ヘンリー、お前もよく頑張ったぞ。これでまたトップハム・ハット卿は俺達に急行を任せるだろうな。」
ヘンリーの機関士が言うと皆大笑い。
中でもヘンリーが一番嬉しそうに笑っていた。
このお話の出演は
ビクター、ゴードン、ベア、マードック、パーシー、ハンク、ドナルドとダグラス、エドワード、パクストン、ハーヴィー、ロッキー、エミリー、そしてヘンリーでした