第5話 Percy's Sliding / パーシーのスライディング
タンク機関車のトーマスが働いている支線はナップフォードから北に向かい、ファークァーまで繋がっている。
かつてはグリン含む"コーヒー・ポット機関車"達がこの支線で働いていたが、ジェームスの脱線事故で活躍したトーマスが客車のアニーとクララベルと共に貰ったのだった。
トーマスは長年、この支線で働いているが何とか慣れている。
今ではコーヒー・ポット機関車に代わって、パーシーとトビーが支線の仕事を手伝っている。
パーシーはファークァーから港に石の貨車を運び、トビーはヘンリエッタと荷物車のエルシーと共に採石場の作業員やお客を運んでいる。
手が足りない時は採石場のディーゼル機関車メイビスやバスのバーティーが手伝う。
また、本線や他の支線で働く機関車が来ることもある。
しかし、前にトーマスが穴に落ちた鉱山からウランが採掘されるようになると、支線の仕事は一気に増えた。
酪農場から運ぶチーズも増えているし、農家から運ぶ野菜も沢山だ。
パーシーはこれらの仕事を一人でこなさなければならなかったが、彼には別に郵便配達の仕事もある。
彼のお気に入りの仕事だ。
そんなこともあってパーシーは目が回るほど忙しくなっていた。
「またオーバーワークだよな。」
「ペンキを塗り替えて貰えばオーバーワークなんてへっちゃら、何て言っていたのは誰だっけ?」
到着に遅れたパーシーにトーマスは皮肉交じりに言ったが、当の本人は真面目だった。
「冗談で言ったつもりはなかったのに。」
「知ってるさ。それより君は少し遅れているんだからもっと早く来いよな。僕まで遅れたら敵わないよ。」
トーマスはプリプリ怒りながらアニーとクララベルと共に走り去った。
トップハム・ハット卿にもパーシー、一人で支線の貨物列車を任せるのは良くないと目に見えた。
そこで彼は忙しい間彼の仕事をする助っ人の機関車を寄越すことにした。
ところがそこで問題が起きた。
「一体どうしたらいいのだろうか」
ナップフォードにあるオフィスで彼は機関車監督官と話をしていた。
「かつて働いていたデイジーに手伝わせようにも彼女はハーウィックの支線で忙しいからな。あの路線をライアン一人にさせるのは無理だ。」
「…ではロージーはどうでしょうか?彼女なら旅客にしても貨物にしても問題ないですしそれに」
「いや、ロージーはヴィカーズタウンでの入れ替え作業があるからダメだ。」
「…ではスプラッターとドッヂかダックは」
「スプラッターとドッヂはハリーとバートの代わりにアノファ採石場へ貸し出しているしダックも支線の仕事がある。どうすればいいか、他のタンク機関車や小型のディーゼル機関車にしても皆それぞれの仕事を抱えているからな。」
トップハム・ハット卿は運行表と机にある地図と機関車の駒を見ながら考えていた。
そしてある機関車を見て閃いた。
「よし、それならフィリップに手伝わせよう。彼をパーシーと働かせてトビーには普段の仕事に就けばいい。操車場の入れ替えはデニスに任せよう。」
そう言いながらトップハム・ハット卿はレーキでフィリップの形をした駒を動かした。
「それなら問題無いですね。フィリップは元々空の貨車を採石場に届けていますからあの路線に慣れていますし。」
監督官も納得した。
一方、パーシーは顔に疲れが見えるほどヘトヘトだ。
「大丈夫かパーシー?今日の仕事が終わったらゆっくり休んだ方がいいね。」
干し草を受け取りながらマッコールさんが言った。
「やぁ…あれ、大丈夫かい?」
次の仕事で郵便を渡しに来た郵便屋のトムも心配している。
「うん、大丈夫さトム。僕の郵便、貨車に積むの頼むよ。」
トムは何が言おうとしたが、駅員が郵便袋を積み始めたのでそのまま駅員を手伝い始めた。
やがて貨車に積み終えるとパーシーは走り出そうとした。
だが、その時大きな破裂音と車輪に痛みが走った。
「イタタタ!もう、急がなきゃいけないのに!」
彼は不満そうだ。
機関士と機関助手がパーシーを点検している。
トムは友達が無理をしなくて済んだため少し安心したが、郵便を届けることが出来なくなるとわかるや否や、すぐにポケットから電話を取り出し、郵便局長に事の次第を話した。
そして、話し終わるとパーシーの元に来た。
ちょうど機関士達の点検が終わっていた。
「ロッドが故障したんだ。」
「ここの機関庫にいくつか部品があったはずだ。それを使って直しておこう。」
機関士と機関助手が機関庫に探しに行くと、トムがパーシーに優しく言った。
「局長が君の郵便はハロルドに運んでもらうことにしたそうだ。トップハム・ハット卿も賛成しているってさ。」
「君はその間機関庫で休むと良い。次の仕事まではまだ時間がある。」
駅長も言った。
パーシーは大好きな郵便の仕事をハロルドに取られて残念だったが、好意に甘えて機関庫で休むことにした。
「ありがとうございます…。」
機関士達が戻ると彼はヨロヨロと郵便車を待避線に移し、機関庫へ滑り込んだ。
パーシーは機関庫でしばらく休んでいた。
その間に機関士達が応急処置をしている。
トビーがヘンリエッタとエルシーと共にお客を運んできた時、ちょうどヘリコプターのハロルドが着陸してきた。
「パーシーに代わって郵便を届けないとね。やっぱりいざとなったら僕の助けが必要になるんだ。」
ハロルドは少し嬉しそうだった。
幸いなことにパーシーは眠っていたため、いつものように揉めることは無かった。
駅員とパイロットが、貨物室に郵便袋を積み込んでいる。
「前みたいに貨物用ネットで吊るすのは危険だね。いくら重量オーバーしていたとしても。」
「今回は大丈夫だ。それに前みたいに郵便は多くないよ。」
心配そうなハロルドにパイロットは笑って言った。
やがて郵便袋を積み終えると、彼らはブルブル音を立てて飛び立った。
パーシーはハロルドのやかましいローターの音で重い瞼を開けた。
辺りには埃と塵が舞った跡がある。
やれやれとまた眠りにつこうとした時、機関士がパーシーを起こすように話しかけた。
「休んでいるところ悪いな。もうじきメイビスが貨車を運んでくる。そいつを港まで運んで、港から空の貨車をここにまた運ぶぞ。」
「ふぁーぁ。はーい、分かりましたぁ。」
彼は欠伸をしながら眠そうに言った。
やがてメイビスが貨車を牽いて操車場に着いた。
機関士が連結を切り離して、彼女を待避線に移す。
そこからパーシーが引き継ぎ、港まで運ぶのだ。
ロッドは直したため、パーシーは何とか貨車達を牽いて走ることが出来た。
「急げ、急げ!急いで港へ向かわなくっちゃ!」
だが貨車達は気に入らない。
彼らは出発の準備を整えずに無理やり走らされているからだ。
「オレ達をこんな風に扱うなんてひどいヤツだ!」
「いつも港に行くときは言うことを聞かせようと乱暴にぶつけてきやがって。」
「それに今日は無理に出発させやがった!」
「何かあの緑の芋虫に効くいい薬はないか?」
「それなら良い手があるぞ。アイツに仕返ししてやるんだ。」
「そいつは良い!早速やってやろうぜ!」
「「やろう、やろう、やっつけてやろう!」」
しかし、運悪くパーシーや機関士達にはよく聞こえていなかった。
パーシーはキンドリー夫人に汽笛を鳴らして挨拶し、トンネルを抜ける。
畑を耕しているトラクターのテレンスにも挨拶しようとしたが、そこで問題が起こった。
「「押せ、押せ!」」
貨車達がここぞとばかりにガツンガツンと車体をぶつけてきた。
車掌はブレーキをかけたが、急な斜面と貨車の重さとスピードのせいで中々掛からない。
機関士も蒸気を抑え、勢いよくブレーキをかけたがブレーキはかからない。
「まだ故障していたのか!」
「このままじゃ止まらないで波止場に一直線だ!」
機関士は砂撒き装置を使って車輪に砂を撒き、少しでもスピードを落とそうとしている間に助手は無線で管制室に連絡を入れた。
その頃、ハロルドは郵便配達を終えてドライオー駅近くの飛行場にいた。
燃料がレスキューセンターまで持ちそうになかったため、補給していたのだ。
「燃料が満タンになったらレスキューセンターへ戻ろう。きっと皆心配してるかもな。」
ハロルドが答えようとしたその時、駅員が駅長の元へ駆け込んだ。
よほど焦っているのか大きな声で話す為、ハロルドとパイロットにも何を話しているのか聞こえた。
「ファークァー線で暴走列車だ、こっちには来ないが港に向かってるらしいぞ!」
「列車は止められているのか?」
「全ての列車を止めてる。環状線に入っている本線の機関車もだ。」
ハロルドもパイロットも知らせを聞いて目を丸くした。
すぐさま追いかけようにもまだ燃料が足りないので、彼らは待たなければならなかった。
ハロルドがやきもきしている間もパーシーは支線を突っ走る。
支線の信号所には既に連絡が回っていて、列車は止められ、踏み切りも閉ざされたままにしている。
踏切待ちをしているバーティーは腹を立てた。
プップー!
「急いでくれよ、僕はトーマスのお客を乗せているんだから!」
しかしすぐさま汽笛と車輪の軋む音、そしてガチャガチャとやかましい音と叫び声が聞こえて来た。
ピッピッピー!
「助けてぇ、止まれないんだよぉ!」
「「行け、行け!脱線させてやれぇ!」」
「何だありゃ!」
さっきの怒りはどこへやら、バーティーはギョッとしている。
プップップッ!
後ろにいた乗用車のキャロラインがクラクションを鳴らして、やっと彼はゲートが開いていたことに気づいた。
「おっと、ごめんよキャロライン。」
パーシーのことが心配だったが彼は無事であることを願うしか出来ない。
そのパーシーは接続駅を通過してトリレック駅へと差し掛かっていた。
トリレックの信号手はエルスブリッジの信号所から連絡を受けていた為、すぐにポイントを港へと切り替えた。
ところが彼は港へ向かう線路の途中に列車が停車しているのを忘れていた。
「しまった!仕方ない、ナップフォードの港前の信号所に任せよう。」
しかし知らせを聞いた信号手はトレリックの信号手に怒鳴った。
「馬鹿野郎!ナップフォードの港に続く線路は単線なんだぞ!なんでエルスブリッジで止めなかったんだ。この揃いも揃って…間抜けめ!」
彼は大急ぎで列車の乗務員へ知らせに向かった。
港まで向かう線路がどこまでも続いている。
その遥か彼方にはディーゼル機関車のスプラッターとドッヂが停車していた。
彼らはメイビスを手伝う為に空の貨車を牽いて採石場へと向かうところだったが、そこにパーシーが暴走している知らせが入ったため止むを得ず港から少し離れた場所で止まっていた。
「いつまでここにいなきゃいけないんだ?」
「知るもんか。信号が青になるまでって機関士は言ってたけど。」
「「信号は青にならない。」」
「二人で文句を言うな。もうじき通過して…」
その時前方から何かが見えた。
ドッヂの機関士はそれが何かわかると大慌てで機関室に駆け込み、ドッヂのブレーキを緩め始めた。
「おいカイル。一体どうしたんだよ。」
「分からないのかジョン、暴走列車がこっちに向かってるんだ!早く機関車のブレーキを緩めて衝突の影響を緩くするんだ!」
パーシーがぐんぐんと迫っている。
スプラッターの機関士もブレーキを緩めてバックさせた。
「お、おい。強く押すなよ」
「オイラ、バックは苦手なんだから仕方ないだろ。」
「それはオイラも」
しかし、彼らの速度は遅い。後退しているのと貨車の重さもあってノロノロと線路を後退している。
ピッピッピー!
「わぁ!そこ退いてぇ!」
パーシーは目を瞑った。
「もうだめだ、降りろ!」
機関士達は大急ぎで機関室から飛び降りた。
「そんな嘘だろぉ!」
「おい、早くしろ早くしろ!」
ガッシャーン!
パーシーはドッヂとぶつかった。
幸いにも二台のディーゼルが後退していた為、大きな事故にはならなかったが、ぶつかった影響でそれぞれの貨車は脱線している。
しかし中にはバラバラになったのもいる。
パーシーの貨車達は仕返しに成功してゲラゲラ笑っているが、スプラッター達の貨車は仲間を失って悲しそうだった。
パーシーはと言うと、バンパーやボディがへこみ、飛行場の敷地に脱線して横倒しになっていた。
ドッヂもパーシーとスプラッターの、スプラッターもドッヂと貨車の板挟みとなって、同じく横倒しだった。
すぐに車掌が助けを呼びに港へと向かった。
しばらくして、クレーン機関車のハーヴィーがトビーとヘンリエッタと共にクレーン車と作業員を連れてきて後片付けを手伝っている。
トップハム・ハット卿も一緒だった。
「こうなっては支線はトビーとトーマスとフィリップに任せるしかない。君は混乱を招いたな。」
トップハム・ハット卿は不機嫌そうに言った。
「申し訳ありません。」
「次から貨車には気をつけるように。だが、事故の原因は全て君にあるわけではない。エルスブリッジとトレリックの信号所にはキツく注意しておいたからな。」
「あの、オイラ達はどうなるんですか?」
恐る恐るスプラッターが聞いた。
「すぐにディーゼル整備工場に送って異常が無いか見てもらうんだ。その後君達はここの仕事に戻ってくれ。その間は別の機関車に任せるからな。やれやれ、精錬所にまた機関車を送ることになりそうだ。」
「「わ、分かりましたぁ」
トップハム・ハット卿はそう言うと去って行った。
このお話の出演は、
トーマス、グリン、ジェームス、トビー、メイビス、バーティー、ハロルド、テレンス、キャロライン、スプラッター、ドッヂ、ハーヴィーそして、パーシーでした。